Strokes Gained(ストロークス・ゲインド:以下SG)を理解し、実戦のコースマネジメントに活かすためのすべての土台となるのが「期待打数(Expected Strokes / 基底値)」です。
ゴルフコース上のあらゆる地点は、「そこからカップインするまでに平均して何打かかるか」という純粋な物理的・統計的数値を持っています。
本稿では、マーク・ブローディ教授がPGAツアーの膨大なショットリンクデータから算出した基準データをもとに、数字の「段差(ギャップ)」が意味するコースマネジメントの鉄則と、Strokes Gainedの算出ロジックを解説します。
1. PGAツアー基準:期待打数インフォグラフィック
まずは、以下のインフォグラフィックでボールの「残り距離」と「ライ(フェアウェイ、ラフ、バンカー、グリーン)」ごとの平均ホールアウト打数(PGAツアー基準)をご確認ください。

2. 期待打数の数値が教えてくれる「3つの重要原則」
この早見表を単なる数字として眺めるのではなく、数値同士の「差分(ギャップ)」に注目すると、現代ゴルフの重要なマネジメント原則が浮かび上がります。
原則①:「ラフのペナルティ」は約0.2打、飛距離20ydの前進と同等
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残り160ヤードのラフからの期待打数は 3.14打。
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残り180ヤードのフェアウェイからの期待打数は 3.03打。
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その差はわずか 約0.11〜0.20打 です。
ここから導き出される結論は、「ラフに入る損失(約0.2打失)」は、「20ヤード前進したアドバンテージ(約0.2打得)」とほぼ完全に相殺されるということです。
ティイングエリアにおいて、着弾エリアに池やOBなどの即死ペナルティ(1打罰)がない限り、番手を落として刻むよりもドライバーで前へ運んだ方が数学的に得をする根拠がここにあります。
原則②:8フィート(2.4m)がパッティングの「天秤の支点」
パッティングの期待打数を見ると、ちょうど8フィート(約2.4m)で期待値が「1.50打(入る確率50%)」になります。
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8フィートより内側:入る確率の方が高い「メイク・ゾーン」
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8フィートより外側:外れる確率の方が高い「スピード・ゾーン(ラグパット領域)」
5m(約16フィート)のパットの期待値は 1.80打 です。つまり、世界のトッププロであっても5回に4回は外して2パットになります。「5mが入らない」と嘆くのは統計的に完全にナンセンスであり、重要なのは「返しのパットを確実に1.01打(3フィート以内)に収める初速管理」です。
原則③:バンカーと深いラフの致命的コスト
残り20〜30ヤードのショートゲームにおいて、フェアウェイ(2.33打)とガードバンカー(2.53打)の差は 0.20打 あります。
グリーンを狙う際、ピンがバンカーに近い側(ショートサイド)にある場合、バンカーに落とした瞬間に0.2〜0.4打の負債を背負うことになります。無理にピンを狙わず、グリーンの広いサイドへ乗せてロングパットを打つ方が、期待値としては圧倒的に安全です。
3. この早見表を使ってStrokes Gainedを算出する計算式
SGCaddieアプリが裏側で実行しているStrokes Gainedの計算は、この期待打数テーブルを使って以下の極めてシンプルな数式で行われています。
【Strokes Gained(SG)の計算式】
SG = 打つ前の期待打数 − 打った後の期待打数 − 1
実例:150ヤードのフェアウェイからピンそば2.4m(8ft)につけた場合
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打つ前の期待打数(FW 150yd):約 2.92
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打った後の期待打数(Green 8ft): 1.50
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計算: 2.92 − 1.50 − 1 = +0.42
このショット1本によって、プレイヤーは平均的なツアープロよりも「0.42打得をした(SG: Approach = +0.42)」と評価されます。
4. アマチュア基準(スクラッチ / 80台 / 90台)における読み替え
「この基準はPGAツアープロのものだから、アマチュアには関係ないのではないか?」という疑問を持つかもしれません。
しかし、ブローディ教授の研究によって、アマチュアゴルファーの期待打数は「PGAツアーの期待値曲線に対して、一定のオフセット(平行移動した数値)」として極めて綺麗に近似できることが分かっています。
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スクラッチゴルファー:PGAツアー基準 + 約0.10〜0.15打 / ショット
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80台ゴルファー:PGAツアー基準 + 約0.20〜0.30打 / ショット
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90台ゴルファー:PGAツアー基準 + 約0.40〜0.50打 / ショット
各シチュエーション間の「傾き(勾配)」や「ライによる打数格差の比率」は、アマチュアであっても全く同一です。
「どの地点が安全で、どの地点が危険か」「どこにボールを運ぶのが最も打数を節約できるか」というコースマネジメントの優先順位は、プロもアマチュアも完全に一致します。
まとめ:感覚ではなく、1打の「相場」を持ってコースに立つ
投資家が市場の相場(プライス)を知らずに取引しないのと同様に、ゴルファーもコース上の「1打の相場(期待打数)」を知らずに正しい決断を下すことはできません。
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今あるライからカップインするまでに、本来何打かかるのが標準なのか
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次のショットをどこへ運べば、最も期待打数を削ることができるのか
この期待打数の基準値を頭の片隅に置き、SGCaddieで1打ごとの増減を可視化すること。それこそが、感覚の迷宮から抜け出し、最も再現性の高いゴルフを手に入れるための第一歩です。

