SGの基準値とは——その数字は、誰と比べた数字なのか

Strokes Gainedの数字を見て最初に戸惑うのは、たいてい符号です。自分のラウンドを計算したら、4つの項目が全部マイナスで並ぶ。どこかを間違えたのだろうか、と思う。間違っていません。SGは絶対値ではなく差なので、何と比べたかを言わない限り、数字は意味を持ちません。その「何と」がベンチマーク(基準値)です。

目次

ベンチマークとは、期待打数を決める母集団のこと

SGの計算そのものは引き算です。期待打数の差を取るだけで、難しい式は出てきません。ただし期待打数は「その状況から、平均して何打でカップに入るか」という統計値なので、誰の平均を採るかで値が変わります。

150ヤードのフェアウェイから、ツアープロは平均3打弱でカップに入れます。同じ地点から、90台のゴルファーは平均3打半ほどかかる。同じ場所、同じライ、違う数字。この差がそのままSGの符号を動かします。

同じラウンドをツアープロ基準と90台ゴルファー基準で計算したSG内訳の比較。基準が変わると符号が反転する
基準が変われば、同じプレーが+にも−にもなる

上の図は同じ1ラウンドを2つの基準で計算した概念図です。プレーは1回しかしていないのに、数字は2つ出てくる。ベンチマークを添えずに「SGは+0.6でした」と言っても情報量がゼロなのは、このためです。

SG値は、必ず「基準」とセットで読む。基準を言わないSG値は、単位のない数字と同じ。

Broadieの既定はツアープロ。だからアマチュアは全部マイナスになる

マーク・ブロディがStrokes Gainedを設計したとき、基準に置いたのはPGAツアーの平均です。ShotLinkが集めた膨大なショットデータが手元にあり、それが最も精度の高いベンチマークだったからです。

結果として、市販のSGツールが出す数字の多くはツアープロ基準です。アマチュアが自分のラウンドを入れれば、OTT(Off the Tee/ティーショット)・APP(Approach/グリーンを狙うショット)・ARG(Around the Green/グリーン周り)・PUTT(Putting/パット)の4項目がきれいに全部マイナスで並びます。これは異常値ではなく、設計どおりの出力です。90を切るゴルファーでも、ツアー基準では1ラウンドあたり合計で10打前後のマイナスになります。

ツアープロ基準で計算した場合のSG内訳。4項目すべてがマイナスに振れている
全項目マイナスでも、読み方は変わらない

読み方は単純です。どこが一番深くへこんでいるか。全部マイナスでも順序はつきます。この例ならAPPが−3.4で最も深く、その日いちばん打を落としたのはアプローチショットだったと分かる。プラスが1つも無いことに意味はなく、へこみの深さの順序に意味がある。

自分のレベルの基準で見ると、失点の内訳が変わる

ツアー基準は「頂点との距離」を測ります。一方、同じスコア帯のゴルファーを基準にすると「同レベルの中での得意と不得意」が見えます。目的が違うので、どちらが正しいという話ではありません。

ただし、上を目指すときに効くのはツアー基準のほうです。ブロディが『Every Shot Counts』で示した有名な数字があります。90台のゴルファーとツアープロのスコア差は、どこで生まれているか。

90台ゴルファーとツアープロのスコア差への寄与。APP40%、OTT28%、ARG17%、PUTT15%
差の4割はアプローチショット(出典:Broadie『Every Shot Counts』

アプローチショットが40%、ティーショットが28%、グリーン周りが17%、パットが15%。ショートゲームが命という通説は、この内訳を見ると成立しません。ARGとPUTTを足しても32%で、APP単独の40%に届かない。

この分解ができるのはベンチマークがあるからです。基準がなければ「パットが33回だった」という総和しか手元に残らず、その33回が上手かったのか下手だったのかは永久に分かりません。

3つ目の基準——過去の自分

実務でいちばん使いやすいのは、これです。自分の過去数ラウンドの平均を基準に置くと、SGは「先月の自分との差」になります。ツアープロとの距離は変わらなくても、こちらは毎月動く。

練習の効果を測るなら、この基準がいちばん正直です。ドライバーを3ヶ月練習してOTTが+0.8動いたなら、それは練習が効いたということ。ツアー基準では−2.1が−1.3になっただけに見えて、同じ変化が読み取りにくい。

ただし前提として、比較に耐えるだけのラウンド数が要ります。1ラウンド分のSGはブレが大きく、5ラウンドから10ラウンドの移動平均でようやく傾向が読めます。Jon Shermanが期待値の管理を土台の一つに置いているのも、1回の結果に反応しても意味がないからです。

基準の使い分け

基準 測っているもの 向いている用途
ツアープロ 頂点との距離 失点の構造を知る。伸びしろの大きい項目を特定する
同スコア帯 同レベル内での相対 自分の強みを把握する
過去の自分 時間による変化 練習の効果測定。月次の進捗確認

3つとも同じ計算式で、引く数が違うだけです。SGの仕組みを一度理解しておけば、基準の入れ替えは難しくありません。

まとめ

SG値を見たら、まず基準を確認する。ツアー基準なら全部マイナスが正常で、読むのはへこみの順序。伸びしろを探すならツアー基準、練習の効果を測るなら過去の自分。基準を言わない数字は、そもそも数字として成立していません。


出典:Mark Broadie『Every Shot Counts』(邦訳『ゴルフデータ革命』)/Jon Sherman『The Four Foundations of Golf』

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次