マーク・ブロディとは誰か——『ゴルフデータ革命』入門

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その数字を見て、明日の練習は変わりましたか

ラウンドが終わって、アプリが数字を出してくれる。SG:PUTT が −2.4、SG:APP が −3.1。なるほど今日はパットが悪かったのか、と思う。そこまでは、たぶん誰でも同じところに着きます。

問題はその次です。翌週の練習場で、実際に何を変えたか。多くの場合、何も変わっていません。いつもどおり7番アイアンを30球打って、ドライバーを打って、最後にパターマットを少し転がして終わる。数字は出ているのに、行動は先週と同じままだったりする。

これは読み方が下手なのではありません。SG(Strokes Gained/ストロークス・ゲインド)という指標が、そもそもそういう性質のものだからです。

SGを使い始めた人がまず驚くのは、自分の感覚と数字がずれていることです。手応えの悪かった日にSGが良かったり、その逆だったりする。そのずれ自体には価値があります。感覚では見えない場所を見せてくれているからです。ただ、ずれを知ることと、来週の練習を決めることのあいだには、まだ一段あります。

SGは診断であって、処方ではない

体温計は熱があることを教えます。しかし何の薬を飲むべきかは教えません。SGも同じです。「どこで何打損したか」を測る道具であって、「だからどう直すか」を出す道具ではない。

SGが優れているのは、ミスの大きさを打数という共通の単位に揃えたところです。OBも3パットもダフリも、すべて「何打損したか」に翻訳される。だから比較ができる。ただし共通の単位に揃えるということは、そのミスがなぜ起きたかという情報を捨てるということでもあります。原因は数字の外側に置いてきている。

ここを混同すると、二種類の失敗が起きます。ひとつは、数字が出ただけで満足して終わる。もうひとつは、数字が薄い根拠のまま練習メニューを組み替えて、三週間後にまた元に戻る。どちらも、診断書を処方箋だと思ったことから来ています。

SGCaddie を作るとき、既定の表示を「どのカテゴリで何打損したか」までにして、その先の「だからこのドリルをやれ」を出さない設計にしました。測ることと、直し方を指図することは、別の仕事だからです。

数字が行動に変わらない、三つの詰まり

最も悪いカテゴリが、最優先とは限らない

いちばん多い誤解がこれです。SG:PUTT が最悪だったからパット練習を増やす。一見もっともらしく見えますが、この判断には「その −2.4 を、どこまで取り戻せるのか」という視点が抜けています。

損している量と、取り戻せる量は別の数字です。上手い人と比べてもほとんど差がつかない領域なら、そこで −2 出ていても、練習で回収できるのは0.3打かもしれない。逆に、上手い人との差が大きく開いている領域なら、−1 でも回収できる幅は広い。SGが出しているのは前者の「損している量」だけで、後者は自分で調べにいく必要があります。後で数字で見ます。

カテゴリの中身が、まだ割れていない

「SG:APP が −3.1」は、まだ診断としては粗い。100ヤードから乗らないのか、170ヤードから乗らないのかで、やることは違います。同じカテゴリの中に、練習で埋まる部分と、番手構成の問題と、そもそも狙う場所の問題が同居している。カテゴリ単位の数字は入口であって、結論ではありません。

1ラウンドの数字では、まだ動けない

18ホールで出た数字には、運が大量に混ざっています。同じ実力でも、日によってカテゴリ別SGの順位は簡単に入れ替わる。何ラウンド貯まれば信じていいのかは、SGは何ラウンドで信頼できるかで扱っています。

従来スタッツの読み癖が、まだ残っている

パーオン率、パット数、フェアウェイキープ率。長年これで自分の調子を判断してきた人ほど、SGの数字を見ても最後は従来スタッツの言葉で結論を出してしまいます。両者が何を見ていて何を見ていないかは、パーオン率が上がってもスコアが変わらない理由にまとめました。

同じ「−2打」でも、意味はまるで違う

面白い比較があります。トラッキングアプリのデータで、スクラッチプレーヤー(ハンディキャップ0の人)と、ハンディキャップ18の人の1ラウンドを並べたものです。スコアは18打ちがう。では、そのうちパット数の差は何打だと思いますか。

答えは3打です。スクラッチのパット数は1ラウンド約33打、ハンデ18の人は約36打。18打の差のうち、パットが説明しているのは3打分しかありません。

スクラッチとハンデ18のスコアとパット数の比較。スコアは18打差、パット数は3打差
スコアは18打ちがうのに、パット数の差は3打しかない

グリーンに乗る回数はまるで違います。スクラッチは18ホール中およそ10回パーオンし、ハンデ18の人は4回ほど。にもかかわらず総パット数はほとんど変わらない。これはハンデ18の人のパットが上手いからではなく、そもそもグリーンに乗っていないので、乗ったときはピンに近く、パットの回数自体が少なくなるからです。

ここから二つ言えます。ひとつ、総パット数という数字は、パットの巧拙をほとんど測っていない。ふたつ、パット練習で取り戻せる打数には天井がある。伸びしろの上限が3打なら、そこに練習時間の半分を投じるのは配分としておかしい。

ただし、これは「パット練習に意味がない」という話ではありません。3打はスコアにすれば十分に大きいし、1メートルを外し続ける人の損失はこの平均値には出てきません。平均で語れるのはあくまで全体の形であって、個人の内訳ではない。だからこそ、平均ではなく自分の数字で判断する必要があります。

行動に変えるための、三つの問い

SGの数字を練習の判断に変えるとき、見るべきものは三つです。

  1. 何打損しているか——SGがそのまま答える部分
  2. そのうち、取り戻せる余地はどれだけか——上の3打の話
  3. それは1ラウンドで何回起きるか——頻度

SGが答えるのは①だけです。②と③は自分で足す。この二つを足さずに①だけで練習を決めているから、数字が行動に変わりません。

取り戻せる余地と発生頻度の2軸で練習配分を決める4象限の図
優先すべきは「余地も回数も大きい」象限。悪い順ではない

この2軸で並べると、順位はしばしば入れ替わります。1回あたりの損失は大きいがラウンドに1回しか起きないミスと、1回の損失は小さいが14回起きるミスでは、後者の合計が上回ることがある。逆に、回数は多いけれど上手い人と比べても差がほとんどないなら、そこを練習しても戻ってくる打数は少ない。

ARG(Around the Green/グリーン周り)が分かりやすい例です。ハンデ18の人はグリーンを14回外します。1回あたりの改善余地が0.1打でも、14回なら1.4打。パットの上限が3打だとすれば、無視できる大きさではありません。

しかも14回の中身は均一ではありません。花道から転がせる場面もあれば、ピンまで残り3ヤードで下りという場面もある。同じ「グリーンを外した」でも、ライと残り距離で期待打数はまったく変わります。だから回数を数えるだけでは足りず、どういう外し方をしているかまで見る必要が出てきます。ここは「ライが全て」で扱った話とそのままつながります。

とはいえ、この2軸は電卓の上できれいに割り切れるものではありません。コースが変われば外し方も変わるし、季節で芝の状態も変わる。数字は方向を決めるためのもので、小数点以下を競うためのものではない。それでも、悪い順に並べて上から潰すよりは、はるかにましな決め方です。

コースでの行動と、練習場での行動は分けて決める

もうひとつ、混ざりやすいものがあります。SGの数字から出てくる「やること」には、二種類あるということです。

ひとつはコースでの判断を変えること。狙う場所、刻むかどうか、レイアップの距離。これは技術が上がらなくても明日から変えられます。効果が出るまでの時間がほぼゼロなので、先に手をつける価値がある。狙いどころの決め方はティーショットの狙いどころなぜピンを狙うと損なのかで扱っています。

もうひとつは技術を変えること。こちらは月単位で時間がかかります。同じ「SG:APP が悪い」でも、狙う場所が悪いのか、狙ったところに打てないのかで、やることは正反対です。

そして、判断を変えたのに結果が悪い日は必ずあります。良い判断と良い結果は別物で、1回のOBで戦略を戻すと、せっかく変えた判断が定着しません。この点は良い判断と、良い結果は別物で詳しく書きました。

自分の数字と、平均の数字を混ぜない

ここまで平均値をいくつか出しましたが、平均は自分の答えではありません。ハンデ18の平均が3打差でも、1メートルを外し続けている人にとっての伸びしろは3打では収まらない。逆に、パットは平均並みでティーショットだけが壊れている人もいます。

平均値の役割は、自分の数字を置く座標を作ることです。33打という数字を知って初めて、自分の36打が「多い」と言える。基準がなければ、36打はただの36打です。この基準の作り方はSGの基準値とはにまとめました。

そして自分の数字は、1ラウンドでは出ません。3ラウンド目で「アプローチが弱点だ」と結論を出し、5ラウンド目で「やっぱりパットだ」と結論を変える。これを繰り返している間は、どの練習も定着しません。

SGが答えない領域を、先に知っておく

ここまでの話には前提があります。SGは打数の損得しか測っていない、という前提です。

朝一のティーで手が震えたこと、後半に判断が雑になったこと、同伴者との相性。こうしたものはSGの数字に直接は出ません。出るとすれば「1ホールの大叩き」という形で、結果としてのみ現れます。何が測れて何が測れないかは、Strokes Gainedで測れないものに整理しました。

測れないものがあることは、SGの欠陥ではありません。体温計が骨折を見つけられないのと同じです。境界を先に知っておけば、数字を過信することも、逆に数字を軽く見ることもなくなります。

まとめ

  • SGは診断。処方箋ではない
  • 最も悪いカテゴリが最優先とは限らない。総パット数の差は、スクラッチとハンデ18で3打しかない
  • 練習を決めるときは「損失」に「取り戻せる余地」と「発生頻度」を掛ける
  • コースでの判断はすぐ変えられる。技術は月単位。分けて扱う
  • 1ラウンドの数字では動かない。何ラウンド必要かは別記事

SGを初めて見る人はStrokes Gainedとは何かから、どのカテゴリで差がつくのかを知りたい人はスコアを決めるのは、どこかから読んでください。

出典
・Mark Broadie『Every Shot Counts』(邦訳『ゴルフデータ革命』)
・Arccos Golf / Golf Monthly「The Stats Behind A Scratch Golfer」
スクラッチ:パーオン10回(56%)、1パット5.2・2パット11.5・3パット1.7
ハンデ18:パーオン4.14回(23%)、1パット3.1・2パット約11・3パット3.7
・Lou Stagner / TheGrint 公開データ(ハンデ別平均パット数)

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