Strokes Gainedで自分のラウンドを見ると、「どこで損しているか」がわかります。ドライバーで削られているのか、アプローチなのか、パットなのか。数字が指を差してくれます。
ですが、そこで多くの人が次の壁にぶつかります。「損しているのはわかった。で、次のラウンドで何を変えればいいのか」
この「次の一打をどう設計するか」に、統計の側から答えを出そうとしているのが、Scott FawcettのDECADEというコースマネジメント体系です。この記事では、DECADEが何を主張する考え方なのかを、日本語で概観します。
先に断っておきます。DECADEは有料のプログラムで、具体的な狙い所の算出方法やターゲット選択のルールはその中で体系的に教えられています。この記事はその中身を解説するものではありません。「どういう発想の道具なのか」までを、公開されている情報の範囲で書きます。
SGが「過去」なら、DECADEは「未来」
まず、SGCaddieのようなSG計算ツールとDECADEの関係を整理しておきます。両者はよく混同されますが、見ている時間軸が違います。

Strokes Gainedは、終わったラウンドの答え合わせです。過去のショットを期待打数と突き合わせ、どこで何打こぼしたかを可視化する。現状把握の道具です。
DECADEは、これから打つ一打の意思決定です。このホールで、この距離で、この風で、どこを狙えば平均的に最もスコアが良くなるか。未来を設計する道具です。
だから両者は競合しません。SGで弱点が見え、その弱点が「コースでの狙い方」に起因するなら、その先はDECADEの領域——そういう関係です。
DECADEの核にある一つの発想
DECADEが土台にしているのは、この記事の読者ならもう馴染みのある考え方——Mark Broadieの期待打数です。「その地点から平均何打でカップインするか」という基準値。SGの土台と同じものです。
DECADEは、この期待打数をショットを打つ前に使います。「どこを狙えば、その後の期待打数が平均的に最も低くなるか」を考える。ここで、直感に反する結論が出てきます。
ちなみにDECADEという名前は、意思決定の手順の頭文字を並べたものです——Distance(距離)、Expectation(期待値)、Correct Target(正しい狙い所)、Analyze(分析)、Discipline(規律)、Execute(実行)。Fawcett自身の言葉によれば、BroadieのデータとPGAツアーの得点統計、そして自分のショットの散らばりを掛け合わせて、狙い所を数学的に「解こう」としたのがその出発点です。
多くの場面で、ピンを直接狙わないほうが、平均スコアは良くなる。
なぜか。ピンはたいてい、バンカーや池やグリーンの端——大叩きの入り口のそばに切られているからです。ピンを直狙いすると、ナイスショットのときの見返り(近くに寄る)より、ミスしたときの罰(バンカー・OB・寄らないラフ)のほうが期待値を大きく引き下げます。

狙いを安全な側に少しずらすと、ナイスショットの見返りはわずかに減りますが、大叩きの確率が大きく減る。差し引きで平均打数が下がる。これがDECADEの発想の骨格です。1打1打では地味でも、18ホール積み上げると効いてきます。
Bob Rotellaがメンタルの側から「1つのターゲットにコミットせよ」と言い、Broadieが統計の側から期待値を出す。DECADEは、その「どこにコミットすべきか」を統計で決めるための体系だと考えると、位置づけが掴みやすいはずです。
「攻める/守る」ではなく「賢いミスをする」
誤解されやすいので補足します。DECADEは「安全第一で刻め」という話ではありません。飛ばせる場面では飛ばす。Fawcettはむしろ、ティーショットの第一候補はドライバーであるべきで、それを選ばないにはよほどの理由が要る、という立場です。
本質は、ミスは必ず出る前提で、ミスの落ちどころを設計しておくことにあります。Fawcettがよく使う比喩に、ゴルファーが持っているのは狙撃銃ではなく散弾銃だ、というものがあります。どんなに上手い人でも一点を撃ち抜けるわけではなく、必ずばらつく。だから、そのばらつき(ショットパターン)がどこに散るかを管理するのが仕事だ、という考え方です。同じミスでも、次に普通に打てるラフに落ちるのと、OBや池に入るのとでは、スコアへの跳ね返りがまったく違う。SG:APP(Approach/グリーンを狙うショット)完全ガイドで見たとおり、同じ距離でもライが変われば期待打数は変わります。ミスの「質」を管理する——それがコースマネジメントの中身です。
ショートゲームのDan Grieveが「ライが全て」と言うのと、根は同じです。技術の側からも、統計の側からも、「どんな状況を自分に残すか」が最も効く、という結論に行き着きます。
SGCaddieがDECADEを実装しない理由
ここは、はっきり書いておきます。
SGCaddieは、DECADEのようなコースマネジメント機能を実装しません。SGCaddieの役割は「どこで損したか」を数値化する診断までで、「次にどこを狙うべきか」の設計には踏み込まない。これは能力の問題ではなく、線を引いているということです。
理由は2つあります。
1つは敬意です。コースマネジメントの体系的な指導は、Fawcettが長年かけて作り上げ、有料で提供しているものです。その中身をアプリに焼き直すのは筋が通りません。診断はSGCaddie、設計はその道の専門家——住み分けるべきだと考えています。
もう1つは設計思想です。SGCaddieは「あなたが今どこで損しているか」を見せる道具に徹します。頼まれてもいない改善法を押し付ける道具にはしません。弱点が見えて、それが狙い方の問題で、本人が「直したい」と思ったとき——そのときに初めて、DECADEのような適切な場所を静かに指し示す。それだけです。
DECADEを学びたい人へ
SGで自分のラウンドを見て、「コースでの狙い方・組み立てで損している」と感じたなら、DECADEはその弱点にまっすぐ効く体系です。
DECADEはScott Fawcett本人が運営しており、内容・申し込みは公式(DECADE Golf/decade.golf)で確認できます。英語のプログラムで、料金体系もそちらに記載があります。競技者向けの本体に加えて、一般アマチュア向けに設計された「DECADE Foundations」もあり、まず触れてみたい人はこちらが入口になります。日本ではタイトリスト所属の青島賢吾氏が認定講師として活動しており、日本語で触れられる数少ない入口になっています。
まず自分のどこが弱いのかを知るところから、という方は、Strokes Gainedとは何かから読んでみてください。SGCaddieは、その診断を毎ラウンド自動でやるための道具です。
本記事はScott FawcettのDECADEコースマネジメントについて、公開情報に基づき概念を紹介したものです。プログラムの具体的な手法・数値・ターゲット選択ルールは含みません。期待打数の考え方はMark Broadie『Every Shot Counts』(邦訳『ゴルフデータ革命』)に基づきます。図はいずれも考え方を示す模式図です。

