「GPSだけでStrokes Gainedを計算する」と言うと、必ず同じ質問が返ってきます。
「GPSって数ヤードずれるでしょう。それで正確な数字が出るんですか」
もっともな疑問です。私自身、GPSウォッチとレーザー距離計を両方持ってラウンドし、ピンまでの距離を突き合わせたことがあります。数ヤードのズレは日常的に出ます。安価なGPSウォッチであれば、なおさらです。
結論から書きます。5ヤードのズレは、Strokes Gainedの計算にほぼ効きません。期待打数にして0.02打程度です。SGの値を決めているのは距離の精度ではなく、ライの区分と、打数そのものです。
以下、数字で示します。
SGは「引き算」でできている
まず計算式を確認します。1打ごとのStrokes Gainedは、次の引き算で決まります。
SG = 打つ前の期待打数 − 打った後の期待打数 − 1
「期待打数」とは、その地点(距離とライ)から平均して何打でカップインするか、という基準値です。Mark Broadieが大量のショットデータから算出した、この基準値がSGの土台になっています。詳しくはStrokes Gainedとは何かで解説しました。
つまりGPSの誤差がSGに影響するかどうかは、距離が数ヤードずれたときに、期待打数がどれだけ動くか——この一点に還元されます。
期待打数のカーブは、寝ている
フェアウェイからの期待打数を、距離ごとに並べたものが図1です。

100ヤードで2.80打、200ヤードで3.12打。100ヤード離れて、差は0.32打しかありません。1ヤードあたりに直すと約0.003打です。
ここに5ヤードの誤差を入れます。
0.003 × 5 = 0.015打。四捨五入して0.02打。
SG値は小数第1位まで表示するのが通例です(+1.2、−0.8のように)。0.02打は、表示すらされない桁です。
しかもこの誤差は、打つ前と打った後の両方で発生し、多くの場合は互いに打ち消し合います。18ホール・70〜100打を積み上げても、ランダムな誤差は平均するとゼロに近づきます。
効くのは「ライ」——約10倍の重み
では何が効くのか。ライです。
同じ150ヤードでも、フェアウェイから打つのとラフから打つのとでは、期待打数がまったく違います。

フェアウェイ2.94打に対し、ラフは3.15打。差は0.21打。距離が5ヤードずれたときの0.02打の、およそ10倍です。バンカーなら3.32打、林の中からのリカバリーなら3.80打まで跳ね上がります。
つまり、SG計算の精度を左右するのは「ピンまで152ヤードか157ヤードか」ではなく、「フェアウェイかラフか」を正しく記録できているかです。そしてこれはGPSの精度とは無関係で、打つ本人がボタンを1つ押せば確定します。
ショートゲームのコーチであるDan Grieveは「ライが全て」と繰り返し書いています。技術の側から見ても、統計の側から見ても、結論は同じところに着地します。
唯一の例外:パットはGPSで測ってはいけない
この記事で最も重要なのはここです。都合の悪い話も先に書いておきます。
グリーン上だけは、GPSの誤差が致命的になります。
パットの期待打数カーブは、フェアウェイとは比較にならないほど急です。3mから2打、1mから1.05打——短い距離の中で数値が激しく動きます。1フィート(約30cm)ずれるだけで0.02打前後、つまり150ヤード地点で5ヤードずれるのと同じだけの差が出ます。
そしてGPSの5ヤードは、グリーン上では約15フィート(4.5m)です。3mのパットが7.5mのパットとして記録されれば、SG:PUTT(Putting/パット)は0.3打以上狂います。

結論として、パット距離はGPSで測らず、プレーヤーが入力する——これが唯一の正解です。歩測でも目測でもかまいません。1m単位で十分です。グリーン上の数メートルは、ゴルファーが最も正確に把握できる距離だからです。
SG:PUTTの考え方はSG:PUTT完全ガイドにまとめました。
SGは「打数」の科学であって、「測量」の科学ではない
ここまでを整理します。
| 要素 | SG計算への影響 | 必要な精度 |
|---|---|---|
| ショットの距離(フェアウェイ・ラフ等) | 約0.02打/5ヤード | GPSで十分 |
| ライの区分 | 約0.21打 | プレーヤーが選択 |
| パットの距離 | 約0.33打/5ヤード | プレーヤーが入力 |
| 打数 | 1.00打 | 間違えようがない |
SGの計算に本当に必要な入力は、「どこから」「どんなライで」「何打で」の3つです。このうち最も重い「打数」は、誤差ゼロで記録できます。「ライ」はボタン1つ。残る「距離」だけがGPSの担当で、そこは数ヤードずれても構わない——そういう構造になっています。
数万円のセンサーやグリップ装着デバイスは、スイングや打点を測るためのものです。SGを出すためだけなら、その精度は要りません。センサーがなくてもSGは計算できる。これは妥協ではなく、SGという指標の性質そのものです。
ただし、コースで見る距離は話が別
ここまではSGの計算——打ち終わったあとに記録を分解する話です。ラウンド中に画面を見て番手を選ぶ場面では、同じ5ヤードの意味が変わります。
150ヤードの表示が10ヤードずれれば、8番か9番かが変わります。SGの計算には0.02打しか効かない誤差が、実際のスコアには1打として出る。
手元のGPSウォッチ2台を、レーザー距離計と突き合わせた結果を書いておきます。
| 機器 | 実測での挙動 |
|---|---|
| Garmin Approach S50 | グリーンのF(手前)・C(センター)・B(奥)の3点がそろって10ヤード超ずれる場面があった |
| NORM GN301 | ずれはおおむね5ヤード程度。屋外での画面の視認性は低い |
S50のほうは3点が同時にずれています。測位が揺れているのではなく、コースデータ側がずれている。測位の精度と、地図そのものの正しさは別の問題です。前者は機器の性能で決まり、後者は地図を作ったときのデータで決まる。後者は使い続けても直りません。
必要なのは精度を上げることではなく、ずれに気づいたときにプレーヤーがその場で直せることです。
| エンジン層(記録・分析) | UX層(コース上の表示) | |
|---|---|---|
| 5ヤードの誤差の影響 | 0.02〜0.03打。無視できる | 番手1つ分。無視できない |
| 必要な精度 | ±10ヤードで足りる | ±3ヤード欲しい |
| 対処 | 不要 | プレーヤーによる手動補正 |
「GPSの誤差はSGに効かない」と「GPSの誤差はコースで困る」は、どちらも正しい。効く層が違うだけです。この2つを混ぜて語ると、精度の話はかみ合わなくなります。
SGCaddieの設計
以上の理屈が、そのまま設計方針になっています。
- ショット地点の記録はGPSのみ。センサー・グリップデバイスは不要
- ライはプレーヤーが選択(ティー/フェアウェイ/ラフ/バンカー/リカバリー/グリーン)
- パット距離はプレーヤーが入力。GPSでは測らない
- コース上の表示距離はプレーヤーが手動で補正できる。GPSは目安として扱う
- 期待打数はBroadieのベンチマークに基づく
「GPSだけで大丈夫なのか」への答えは、「大丈夫になるように、GPSに任せる範囲を決めてある」です。
アプリの詳細はSGCaddieについてにまとめています。
本記事の期待打数は、Mark Broadie『Every Shot Counts』(邦訳『ゴルフデータ革命』)に掲載されたPGAツアー平均データに基づく近似値です。実際のベンチマークはカテゴリ・距離帯によって細分化されています。

