ボブ・ロテラとメンタル——原則を、SGの数字で確かめる

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「今日はメンタルにやられた」で片づけている日がありませんか

朝一のティーで手が動かなかった。3番で叩いてから最後まで戻らなかった。同伴者に置いていかれて、後半は何をやっているのかわからなくなった。こういう日をどう記録していますか。

たいてい「メンタル」の一言で片づけられます。そして片づけた瞬間に、そこから先の分析は止まる。測れないものとして扱われるからです。

ただ、メンタルの領域で語られてきたことの多くは、じつは数字の側からも同じ結論に着きます。むしろ数字を知らないことが、崩れる原因になっている場合すらあります。

ボブ・ロテラとは誰か

ボブ・ロテラ(Bob Rotella)はアメリカのスポーツ心理学者です。バージニア大学でスポーツ心理学のプログラムを長く率い、その後はツアー選手の指導に軸足を移しました。メジャー優勝者を含む多数のプロが彼のもとを訪れています。

一般向けの著作では『Golf is Not a Game of Perfect』と『Putting Out of Your Mind』がよく知られています。前者はゴルフ全体の考え方、後者はパットに絞った内容です。

彼の書くものに共通しているのは、精神論ではないという点です。根性や気合いの話は出てきません。中心にあるのは、この競技がどういう構造をしているかを正しく理解すれば、心の持ち方は自然に決まるという考え方です。

原則1:ゴルフは、ミスのゲームである

ロテラが繰り返すのは、ゴルフとは完璧なショットを並べる競技ではなく、ミスの管理で勝負が決まる競技だ、ということです。うまく打てなかった球をどう扱うかが結果を分ける。

これは統計の側から見ると、そのまま分散の話になります。どんなに上手い人でも打球はばらつく。ばらつく前提で場所を選ぶかどうかが差になる、というショットパターンの考え方と同じことを、彼は心理の言葉で言っています。

数字で見ると、この「ミスのゲーム」という表現が誇張ではないことがわかります。マーク・ブロディの解析によると、PGAツアー選手が1パットで沈める確率は、10フィート(約3メートル)で40%です。15フィートで23%、20フィートで15%。

PGAツアー選手の1パット成功率を距離別に示したグラフ。8フィートを境に50%を下回る
8フィートを超えると、世界最高の選手でも半分は入らない

境目は8フィート(約2.4メートル)です。これより遠いすべての距離で、ツアー選手の成功率は5割を切ります。10フィートなら6割は外れる。テレビ中継で見る印象とはかなり違うはずです。

グリーン周りも同じです。25ヤード以内からの寄せワン成功率は、スクラッチプレーヤーで57%。裏を返せば、4割以上は寄せワンになっていません。

この数字を知らないまま3メートルを外して落胆するなら、それは技術の問題ではなく、期待値の設定の問題です。落胆する必要のない場面で落胆し、その動揺を次のホールへ持ち込む。崩れの起点はここにあることが多い。

原則2:過程を評価し、結果は受け入れる

ロテラのもうひとつの柱が、判断の質と結果を切り離すという原則です。正しく狙って正しく振っても悪い結果は出るし、雑な判断でも良い結果は出る。だから1回の結果で自分の判断を評価してはいけない、という話です。

ここでSGと、正面から噛み合わない部分がある

正直に書きます。SG(Strokes Gained/ストロークス・ゲインド)は結果の指標です。打った後にボールがどこへ行ったかで計算される。判断の質そのものは測っていません。

つまり1打単位で見れば、SGはロテラが「見るな」と言っているもの、つまり結果を数値化したものになります。ここは擁護せずに認めるべき点です。

それでも噛み合う理由は、サンプル数にある

1打では運が支配します。10打でもまだ支配します。しかし数百打まで積み上がると、運の寄与は薄まり、判断と技術の差が残ります。

ロテラが「1回の結果で判断するな」と言うとき、彼が禁じているのは少ないサンプルでの評価です。SGを1ラウンドで読んで一喜一憂するのは、まさにこれに当たります。逆に数十ラウンドを貯めて傾向として読むなら、両者は矛盾しません。

必要なラウンド数の目安はSGは何ラウンドで信頼できるかに、判断と結果の切り分けは良い判断と、良い結果は別物にまとめました。

受け入れることは、諦めることではない

「結果を受け入れる」と聞くと、向上心を捨てる話に聞こえるかもしれません。ロテラの本を読むと、そうではないことがわかります。

彼が求めているのは、1打ごとの評価をやめて、判断の基準を長い時間軸に移すことです。目の前の3メートルが入らなかったことに意味を求めない。その代わり、10ラウンド分の1〜2メートルの成否は真剣に見る。評価の単位を変えているだけで、基準を下げているわけではありません。

これはSGの読み方とまったく同じ構造です。1打のSGにはほとんど情報がなく、1ラウンドでも運が大半を占める。それでも数十ラウンドまで積めば、そこに残るのは実力です。短い単位では受け入れ、長い単位では厳しく見る。心理学の側と統計の側が、別々の言葉で同じ運用を指しています。

原則3:練習する自分と、プレーする自分を分ける

ロテラは、練習場での思考とコースでの思考をはっきり分けます。練習場では技術を疑い、分解し、直す。コースでは疑わず、持っているもので打つ。

この切り替えができない人は、ラウンド中にスイングを直そうとします。1番でダフれば2番でテークバックを変え、3番でまた別のことを試す。18ホールのあいだに複数のスイングを試すことになり、当然どれも安定しません。

データの扱いも同じです。ラウンド中にSGの数字を見る意味はありません。18ホール分の記録が揃って初めて計算が成立するうえ、途中経過を見て思考が乱れるなら、害のほうが大きい。分析は終わってからやることです。

原則4:小さなターゲットに集中する

ロテラは、漠然と「グリーン」を狙うのではなく、具体的で小さな目標を見ろと言います。木の一点、旗竿の根元、グリーン上の変色した部分。狙いが曖昧だと、動作も曖昧になるからです。

これは一見、分散を前提に広い安全域を狙うという考え方と矛盾して見えます。実際には矛盾しません。どこを狙うかを決めるのが分散の仕事で、決まった一点にどう集中するかが心理の仕事です。

順序としては、まず分散を考えて狙う場所を選ぶ。ピンの真上ではなく、外しても大怪我しない側を選ぶ。そこまで決まったら、その場所の中の小さな一点に集中して振る。狙う場所の選び方はなぜピンを狙うと損なのかティーショットの狙いどころで扱っています。

逆の順序でやると壊れます。小さな目標に集中することだけを覚えて、その目標がピンそのものだと、集中すればするほど損が増えていく。

ルーティンは、心を落ち着けるためのものではない

ロテラはプレショットルーティンを重視します。ただし理由が独特です。緊張を鎮めるためではなく、判断を終わらせるためのものだ、という位置づけになっています。

ボールの後ろで狙いを決める。決めたらアドレスに入る。アドレスに入った後は、もう考えない。ここで区切りを入れないと、振っている最中まで「本当にこの番手でいいのか」が続き、動作が緩みます。

スコアを崩す日の多くは、この区切りが消えている日です。前のホールの失敗が残っていて、狙いを決めた後もまだ迷っている。迷いながら振った球は、たいてい中途半端なところへ行きます。

数字を扱う人ほど、この点は注意がいります。データを持つと、コース上で考える材料が増えるからです。残り距離、ライ、風、期待打数。材料が増えれば判断は良くなりますが、判断を終える時点を決めておかないと、材料の多さがそのまま迷いの長さになる。考えるのはアドレスに入るまで、と決めておく必要があります。

崩れる日は、数字にどう出るか

メンタルの崩れは、SGの数字に「メンタル」という項目では出てきません。出るのは形を変えてです。

典型は1ホールへの失点の集中です。18ホールのうち16ホールは平常どおりで、2ホールだけで5打も6打も失っている。合計スコアだけを見ると全体が悪かったように見えますが、ホール別に分解すると崩れた場所は限られています。

もうひとつは後半の判断の劣化です。技術は前半と変わらないのに、後半だけ無理な狙いが増える。取り返そうとしてリスクを上げるので、失点の幅が広がります。

どちらもホール別SGの並びを見れば形として現れます。「メンタルがやられた」を「12番と15番で合計5.8打失った」に言い換えられれば、次のラウンドで注意する場所が具体的になる。感情を数字に置き換えるのではなく、感情が残した跡を数字で見つける、という順序です。

それでもSGが届かない部分

ここまでを踏まえても、SGが測れないものは残ります。

同じ「1ホールで5打失った」でも、緊張だったのか、風を読み違えたのか、判断がそもそも雑だったのかは、数字からは区別できません。SGは場所を特定するところまでで、原因の切り分けは人間の仕事です。この線引きはStrokes Gainedで測れないものに書きました。

そしてロテラの本を読んで最も価値があるのは、たぶん技法ではありません。この競技はそもそもうまくいかないようにできているという前提を受け入れる部分です。ツアー選手が10フィートを6割外す競技で、自分が3メートルを外したことに意味を求めるほうが無理がある。

期待値を正しく持つこと。これはJon Sherman が4つの土台の第一に置いたものと同じです。心理学の側からも、統計の側からも、出発点は同じ場所にあります。

まとめ

  • ボブ・ロテラはスポーツ心理学者。精神論ではなく、競技の構造の理解から心の持ち方を導く
  • PGAツアー選手の1パット成功率は10フィートで40%。8フィートを超えると5割を切る
  • SGは結果の指標であり、1打単位ではロテラの原則と噛み合わない。数十ラウンド積んで傾向として読めば矛盾しない
  • ラウンド中に数字を見る意味はない。分析は終わってから
  • 狙う場所は分散で決め、決まった場所の中の一点に集中する。順序を逆にすると壊れる
  • メンタルの崩れは、ホール別SGでは失点の集中と後半の判断劣化として現れる

出典
・Bob Rotella『Golf is Not a Game of Perfect』/『Putting Out of Your Mind』(概念の参照)
・Mark Broadie によるPGAツアーの1パット成功率
2フィート99%/3フィート96%/4フィート88%/5フィート77%/10フィート40%/15フィート23%/20フィート15%/30フィート7%
・Arccos Golf / Golf Monthly「The Stats Behind A Scratch Golfer」
スクラッチプレーヤーの25ヤード以内からの寄せワン成功率57%
・Jon Sherman『The Four Foundations of Golf』(邦訳『ゴルフ 4つの土台』)

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